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甲府地方裁判所 昭和26年(行)9号 判決

原告 原義直 外一名

被告 芦川村長

一、主  文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は被告が原告原義直に対して昭和二十六年二月八日、原告宮川政朝に対して同年一月二十七日なした懲戒免職処分はいずれもこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求める旨申立て、その請求原因として原告原義直、同宮川政朝は山梨県東八代郡芦川村吏員であるが、被告は原告原に対しては昭和二十六年二月八日、同宮川に対しては同年一月二十七日地方自治法施行規程第三十九条第三十四条の規定村により同吏員懲戒審査委員会の議決を経たものとして夫々懲戒免職処分に付し右各期日にその旨原告等に通知をした。

しかしながら同村前村長宮川安朝は村議会解散中である昭和二十五年八月一日村長の専決処分を以て訴外渡辺徹、立沢栄、宮川政朝の三名を同委員会の委員に任命し、同年十一月五日同村議会の同意を得た。而して同委員会規則によると委員の任期は二年とされているのであるから原告等に対する議決当時においては同委員会は右三名を以て構成されていたのである。それにも拘らず、被告は昭和二十六年一月二十日新に訴外宮川政春、大塚精一、土橋梅吉の三名を委員に任命して、別個の委員会を構成し、これに対して原告等の懲戒審査の請求をなし、同委員会は原告等を懲戒免職すべき旨議決したのである。それならば右宮川政春外二名によつて構成された委員会はその成立が不適法であるから同委員会の議決に基いて被告の為した原告等に対する前記処分は違法である。

仮に同委員会の成立が適法であるとしても原告等には何等地方自治法施行規程所定の懲戒事由がないのに拘らず同委員会は故らに原告等を免職しようとして被告の一方的な審査請求を認めて前記議決をなしたものであるから斯る違法な議決に基いてなされた被告の原告に対する前記処分はこの点においても違法であつて取消さるべきものであると陳述した。(立証省略)

被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として原告等の主張事実中原告原義直、同宮川政朝が山梨県東八代郡芦川村吏員であること、被告が原告等主張のような手続を経てその主張の日に原告等を懲戒免職処分に付しその旨原告等に通知をしたこと及び被告が昭和二十六年一月二十日訴外宮川政春、大塚精一、土橋梅吉の三名を懲戒審査委員会の委員に任命したことはいずれも認めるがその余は否認する。地方自治法施行規程第四十条第四項によれば町村の懲戒審査委員会は委員三名を以てこれを組織する旨規定され又同第五項は委員は町村の吏員の中から一人及び学識経験を有する者の中から二人を町村長において議会の同意を得て任命する旨規定している。

しかるところ芦川村前村長宮川安朝は村議会があるに拘らずこれを招集せず総て専決処分を以て処理していたのであつて原告等が同村長の専決処分に依て任命されたと主張する三名の内立沢栄は委員に任命されておらず又その就任を承諾したことがない。仮りに右三名が任命されたとしても地方自治法第百七十九条第三項による村議会の同意を得てないから原告主張の委員に依て構成された委員会は未だ有効に成立していなかつたものとみるべきである。そこで被告は村議会の同意を得て昭和二十六年一月二十日新に同村吏員懲戒審査委員に訴外宮川政春、大塚精一、土橋梅吉の三名を任命したのであるから右議会の同意は前村長が専決処分によつて任命した前記委員の不同意を前提として為したものと解すべきである。故に被告が任命した委員によつて構成された委員会のみが適法に成立した委員会であるから同委員会の決議に基いて為された被告の処分は決して違法ではない。ところで右委員会は被告の審査請求に基き慎重審議の結果、原告原は実父義政を殴打する等親不孝の行為をなした点を採り上げ同原告には地方自治法施行規程第三十四条第一項第二号に該当する職務の内外を問わず公職上の信用を失うべき行為があるとなし且つ又同原告は村の衛生係吏員として薬品その他衛生材料の受払事務の責任者でありながら薬品消耗品等の貴重物受払につき何等その受払簿を作成しない職務の怠慢があり著しく公務員として適格を欠くものであることを理由とし又原告宮川は芦川村吏員であると同時に同村農業調整委員会の書記を兼任していたのであるが、昭和二十六年一月二十六日の同委員会において同原告に対して職務怠慢の理由で解職の決議がなされたこと及び無届無理由長期欠勤による職務の怠慢があつたことを理由として原告等を夫々懲戒免職すべき旨議決し、被告は右の議決に基き適法に原告等を懲戒免職処分に付したものであるから原告等の主張は理由なく棄却さるべきであると述べた。(立証省略)

三、理  由

原告原義直、同宮川政朝は山梨県東八代郡芦川村吏員であつて被告が原告原に対しては昭和二十六年二月八日、同宮川に対しては同年一月二十七日地方自治法施行規程第三十九条第三十四条の規定により同村吏員懲戒審査委員会の審査を経て夫々懲戒免職処分に付し右各期日にその旨原告等に通知をしたことは当事者間に争がない。

仍て先づ右懲戒審査委員会成立の適否につき判断するに被告が昭和二十六年一月二十日訴外宮川政春、大塚精一、土橋梅吉の三名を芦川村吏員懲戒審査委員会の委員に任命し右委員に依て構成された委員会の議決に基き前掲処分をなしたものであることは当事者間に争のない事実であつて成立に争のない乙第一号証、証人渡辺亘、同宮川政春の各証言に依ると被告は同年一月十九日に開かれた芦川村議会に右三名を同村吏員懲戒審査委員に任命する件を提案し同議会の同意を得てその任命を為したものであることが認められる。もつとも証人宮川安朝(第一回)同鈴木本開の各証言、原告宮川政朝本人訊問の結果(第一回)によると芦川村前村長宮川安朝はこれより前昭和二十五年八月当時同村議会が解散中であつたため村長の専決処分を以て訴外渡辺徹、立沢栄、宮川政朝の三名を同村吏員懲戒審査委員に任命している事実はこれを認めることができる。しかしながら地方自治法第百七十九条第三項に依れば右村長の専決処分は次の会議においてこれを議会に報告しその承認を求めなければならないところ原告等は宮川前村長の専決処分によつて任命された前掲三名の委員については昭和二十五年十一月五日に開かれた村議会の承認を経たと主張しているが此の点に関する甲第一号証はその成立並びに原本の存在が認められないし証人宮川安朝(第一回)、同鈴木本開の各証言並びに原告宮川政朝本人訊問の結果も亦成立に争のない乙第七号証と対比すると到底措信することができない。他に以上の認定を左右し得る証拠はない。それならば前認定の宮川政春他二名の任命に対する村議会の同意は前村長の専決処分に依る委員の任命を承認しないことを前提として為されたものと解することができるから被告によつて任命された前記宮川政春等三名の委員によつて構成された委員会のみが適法に成立した委員会であると謂わなければならない。

次に原告等に対する懲戒事由の有無につき判断する。成立に争のない乙第四同第五号証の各一及び三証人宮川政春並びに大塚精一(第一、二回)の各証言によると芦川村吏員懲戒審査委員会は昭和二十六年一月二十七日及び同年二月八日附被告の原告等に対する各懲戒審査の請求に基き審査の結果被告主張の如き理由を以て原告等を懲戒免職すべき旨の議決をなしたものであることが認められた前掲各証人、同市川文雄、同桐原正の各証言被告本人訊問の結果、原告原義直本人訊問の結果の一部を綜合すると原告原は昭和二十五年九月頃その実父政義に傷害を与える等不孝の行為があつた為役場吏員を罷免すべき旨の世論があり、後日右事件は甲府簡易裁判所において有罪の判決を受けている事実並びに同原告は衛生係書記として衛生行政全般の事務及び国民健康保険に関する事務を担任していたが同係より芦川村診療所に交付すべき医療品薬品等について備品台帳及び受払簿に明確な記載を為すことを怠る等その取扱に粗漏の行為があつたこと又右事実が村議会の問題となり衛生委員より注意を受けたこともある事実が認められ右認定に反する証人宮川安朝の証言(第二回)及び原告原義直本人訊問の結果の一部は措信し得ないし他に以上の認定を左右し得る証拠はない。而して芦川村は山梨県内における山間の僻村であることは当裁判所に顕著な事実であるから一般的には兎も角として同村の現状からみて村民の感情としては実父を傷害する如きは到底是認し得ないことであろうから同原告を以て村内の指導階級ともいうべき役場吏員として相応しくないものと認定することは著しく妥当を缺くとは為し得ないことであり加ふるに衛生係としての職務怠慢もあるので右認定の事実は地方自治法施行規程第三十九条第三十四条第一項第一、第二号所定の懲戒事由に該当するものと為すを妨げない。次に成立に争のない乙第三号証、証人市川文雄の証言に依て成立を認める乙第六号証の二証人宮川政春、同大塚精一(第一、二回)同市川文雄、同高村丑太郎、同田中寅造の各証言被告本人訊問の結果、原告宮川政朝本人訊問の結果(第一回)の一部を綜合すると原告宮川は芦川村書記として村農業生産計企の樹立、供出の割当肥料の配給等に関する事務及び庶務の一部を担当し同時に同村農業調整委員会書記を兼務していたが昭和二十六年一月九日より同年一月二十六日迄十八日間無届長期缺勤しその間前村長である実兄宮川安朝に関する訴訟事件の傍聴、訴訟手続等のため甲府市東京都等を往復していた事実並びに同村農業調整委員会において決定した昭和二十五年度産米雑穀の部落別保有供出の割当数量を何等権限なくして擅に変更した廉により昭和二十六年一月二十六日同委員会において同原告を解職する旨の決議が為されている事実が認められ右認定に反する証人宮川安朝の証言(第二回)及び原告宮川政朝本人訊問の結果(第一回の一部及第二回)は措信し得ないし他に以上の認定を左右し得る証拠はない。而して右認定のように自己本来の職務を無届長期缺勤し実兄の訴訟に奔走するごときことは甚しい職務怠慢であつてこの一事を以ても優に地方自治法施行規程第三十九条第三十四条第一項第一号所定の懲戒事由に該当するものと謂わなければならない。

以上の理由により前掲審査委員会の議決に基いて為した被告の原告等に対する処分は適法であつて原告等の主張する如き違法はないから原告等の本訴請求を失当として排斥することとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 杉山孝 林正行 勝見嘉美)

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